【書評・感想】MONEY もう一度学ぶお金のしくみ|前編

お金の知識

私たち日本人は学校でお金について学ぶことはありません。

お金は毎日使っているものなのに、多くの社会人にとって「お金ってなんだ?」状態ですよね?

そんな「お金ってなんだ?」を学べる本として「MONEY もう一度学ぶお金のしくみ」が面白いのでご紹介します。

といっても14章構成でとても長いので前半と後半に分けてご紹介します。

本の章構成としても

  • 前半「第Ⅰ部 お金の正体」
  • 後半「第Ⅱ部 なぜお金が重要か」

に分かれているのでちょうどよいかな。

例示や比喩が多くわかりやすくまとめられています。
高校でお金の授業があるなら教科書として使ってほしいレベルの良書です。

「第Ⅰ部 お金の正体」の目次と導入

目次は以下の通りです。

  • 第Ⅰ部 お金の正体
    • 第 1 章 お金ってなに?
    • 第 2 章 インフレとデフレ
    • 第 3 章 物価の科学:技芸、政治、心理学
    • 第 4 章 信用と破綻
    • 第 5 章 中央銀行の業務
    • 第 6 章 為替レートと世界金融システム
    • 第 7 章 黄金

この本は各章の導入が秀逸なので合わせてご紹介します。

第 1 章 お金ってなに?

あの小さな円盤や紙切れの本質は何だろうか。

そのもの自体は役に立つように見受けられないのに、それでも経験則に反して、最も有用な商品と引き換えに手から手へ受け渡される。

それどころか、だれもがそれを手に入れるためにいそいそと自身の商品を手放そうとするのだ。

この章で気になったフレーズは以下です。

  • 北朝鮮は新通貨との交換が24時間のみだった
  • お金は富と同義ではないということだ。家は富だ。
  • バッグや財布の中の100ドル札にはない。重要なのは、お金が価値ある存在になるために、必ずしも内在的価値は必要ないという点だ。交換を促進できればいい。
  • お金は目的のための手段だ。特化と取引を円滑にして、私たちの生産性を高めて、もっと豊かにする。

この章を読んでお金というのはやはり「共同幻想」だなと再認識しました。

“集団で妄想する力”はホモサピエンス特有の能力だそうですが、お金にもホモサピエンスの能力が使われているんですね。

世界の刑務所には鯖のパック(危険だから鯖缶じゃない)が通貨として使われているところもあるそうです。

第 2 章 インフレとデフレ

インフレかデフレか、できるものなら教えてほしい:われわれがなるのはジンバブエか、それとも日本か?

この章で気になったフレーズは以下です。

  • 第一に、インフレは決して完全に予測可能なものではない。つまり物価の上昇は、あらゆるものをややこしくして、混乱させる可能性を持っている(本来お金がすべきことの正反対だ)。
  • 第二に、デフレはインフレにまつわる問題すべて──に加えて、さらに多くの問題──をもたらす。物価の下落は、個人や企業に、経済へ悪影響を与える行動をとらせかねず、すると物価がさらに下がり、それがさらに経済を破壊させる行動を招き……と続く。
  • 最後に、マネーサプライの操作──追加の紙切れを与えたり、貸しつけたりするだけ──は、実体経済に大いに影響を与えかねない。ポーカーゲームでは、もはや靴箱に追加のお金がないのにさらにチップを配ったら、プレイヤーたちの賭け方に影響が出るおそれがあり、それがゲームの結果に影響する。
  • インフレが起きると歯磨き粉をチューブに戻そうとするのと同じくらい難しい
  • 米ドルはほぼ間違いなく、思いつくかぎり最悪のお金と言える。内在的価値もないし、本質的な希少性もない。質の低下の速度や程度に、物理的制約がない。歴史的に、政府が紙幣の扱いを誤った例はいくらでもあり、アメリカの場合ではジョージ・ワシントンと大陸会議の例があげられる。一方で、米ドルは考えられるかぎり最適な通貨形態でもある。

この章を読んで、インフレとデフレの操作の難しさや世界的に「緩やかなインフレ」が良いとされている理由を具体的に理解できました。

「銀行融資でマイナス金利貸付はない。そのまま金庫に持っている方が良いから」
ということについての例が印象的でした。

第 3 章 物価の科学:技芸、政治、心理学

10セント硬貨(ダイム)には、もう10セントぽっちの価値もない。

この章で気になったフレーズは以下です。

  • 広範な物価水準の変更をとらえる単純な概算方式として、さまざまな国でのビッグマックの価格変動を利用したマクフレーション指数を作成した。ビッグマックはさまざまな国に共通していて、それぞれが財バスケットを構成している
  • この単純なツールは、外国の粉飾を見破るのに使える
  • たとえばアルゼンチンは、2000~2010年のバーガーインフレが19パーセントだったのに対して、公式インフレ率は10パーセントにすぎなかった。
  • なぜ公式統計をごまかすか?政府はしばしばさまざまな生計費調整を約束する。
  • アルゼンチンの場合は、インフレとともに上昇する国債の利率が鍵だった。これらのコストを最小化する方法のひとつが、公式インフレ率の値をごまかすことだった。
  • デフレはヘリコプターマネーで解決できるのに、日本はなぜ20年も苦しんできたのか?
    それは一部の権力ある集団は、物価が下落しても構わないからだ。
    たとえば日本の年金生活者にとって、デフレは良いことだ。
  • 貸し手は通貨の価値を守ろうとしてきたし、借り手は通貨の減価を求めてきた。
  • 政府は大口の借り手になりがちだ。債務者はインフレを切望する。

また、多少のインフレがゼロよりましな理由についても説明されていて、これには納得しました。

  • 貨幣錯覚のせいで名目上の利得と見せかけた実質的損失を労働者や消費者が受け入れるため、市場がもっと円滑に機能する
  • 低くてもプラスのインフレ率は、特に景気の低迷期にデフレに陥るのを防ぐ
  • 緩やかなインフレは、ゼロ金利の壁にぶち当たる前に実質金利を引き下げる余地を中央銀行に与える

日本のデフレについても取り上げられているのでとても身近に感じます。

第 4 章 信用と破綻

はい、こういうことは過去にも経験があります。残念なことに何回も。

この章で気になったフレーズは以下です。

  • 金融恐慌は必ず起こるし、起きた場合は直接の当事者たち以外にも被害が及ぶ。
  • 信用の性質、銀行は景気が良いと積極的に貸付をおこない、景気が悪いとこの上なく慎重になる
  • 「音楽が流れているかぎり、立ち上がって踊らなければなりません。まだわれわれはダンスを続けています」
  • あの高名な科学者で勲爵士の称号を持つアイザック・ニュートンも、投機的な不動産バブルで大金を失い、つぎのような結論を下している。
    「私には、天から授けられた人体の動きは計算できるが、人間の狂気は計算できない」

この章では人類が繰り返してきた金融恐慌が防げないものとして説明されています。

「音楽が鳴り続ける限り踊り続けなければいけない」という表現がまさにバブルを表していますね。

ニュートンほどの天才も「計算できない」と言っているのですね。
厳密な計算は無理でも予測ならできるのかな?

第 5 章 中央銀行の業務

われわれの経済システムが最もうまくはたらくのは、平均物価水準が将来的にも既知のやり方で──できれば非常に安定して──動くことを、製造者、消費者、雇用者、被雇用者が確信できる場合だ。

この章で気になったフレーズは以下です。

  • 通貨の基盤になっているのが素材の紙のみの場合、安定した物価とジンバブエのようなハイパーインフレの間に立ちはだかるのは、責任ある中央銀行だけだ
  • 大事なのは中央銀行が金利を引き上げたり引き下げたりするとき、経済──ひいては物価──に及ぼす影響も、タイムラグを伴う。
  • アクセルとブレーキが効くまでに、長く、予測不能な遅れを伴う自動車を運転するようなものだ。アクセルを床につくまで踏みこんだ瞬間、自動車は5分前の踏みこみに反応して、制御不能な速度で走り出す。ブレーキを踏んですぐに速度が落ちることもあれば、数キロメートル進んでしまうこともある。
  • 難しいのは、危機が不必要に広がるのを防ぐ消防署を提供しながら、市民に寝タバコをさせないように手を尽くすことだ。

この章では中央銀行の業務とその難しさが説明されています。

アクセルとブレーキの操作の難しさはよく言われますが、具体的に説明されていて理解できるようになっています。

金融ショックの歴史は人類の今までの失敗と対策の歴史なんですね

第 6 章 為替レートと世界金融システム

通貨の切り下げは、寝小便みたいなものだ。はじめはいい気持ちだが、すぐにひどいありさまになる。

この章で気になったフレーズは以下です。

  • ビッグマック指数だ。このふざけてはいるが便利な指標は、3つの前提にもとづいて予測されている。
    • 第一に、ビッグマックが世界中のいろんな国々で販売されていること。
    • 第二に、一つひとつのビッグマックが、貿易財と非貿易財の材料が詰まったバスケットであること:牛肉、パンの材料の小麦は貿易財。店の地代と、マクドナルドの従業員の労働は非貿易財だ。
    • 第三に、ビッグマックは、その販売地での財とサービスの似たようなバスケットであることから、現地通貨で示したビッグマックの価格は、購買力平価から示唆される為替レートの単純指標だ
  • 強い通貨が必ずしも強い経済を反映しているとはかぎらない。
  • 通貨が弱いということは、その国が生産の見返りに得るものが少なくなるということだ。
  • すべての通貨が同時に弱くなるのは、数学的に不可能だ。
    フットボール観戦で、よく見ようと立ち上がるようなもの──良い戦略だ──だれもが同じようにするまでは。
    「だれの視界も良くなっていないが、全員かなり居心地が悪くなる」

この章では為替について深く説明されています。

導入の「寝小便」や「フットボール観戦で全員立ち上がる」のは言い得て妙だなと思いました。

単純ではないけど、やはり今後の日本通貨は弱くなっていくのかな~

第 7 章 黄金

1920年代に黄金価格が引き上げられていたり、あるいは主要国の中央銀行が、金本位制死守よりは物価安定政策を追求していたら、大恐慌も、ナチス革命も、第二次世界大戦もなかったでしょう。

この章で気になったフレーズは以下です。

  • 黄金だってインフレは起こす。
  • 金本位制での物価は黄金の供給に応じて上がったり下がったりする。これは他のどんな種類のお金とも変わらない。
  • 黄金には本当に内在的な価値があるのか?これは一見したよりも難問だ。
  • 黄金に価値があるのは、一部は他の人々が黄金に価値があると信じているからだ。これは百ドル札に価値がある理由と大差ない。
  • 「黄金はその独特な物理的属性がなければ、各種通貨システムの至高の王者という地位を決して達成できなかっただろう。でも黄金に対する需要が時代を通じてこれほど大きかったのは、それがお金として使われていたからなのだ。」
  • 現代経済では、黄金は有効なお金の基本的な条件三つすべてで失格だ。
    1. 交換媒体として機能するには量が足りない。
    2. 有効な会計単位になるには価値変動が大きすぎる。
    3. 価値貯蔵手段として使っても収益を稼がない。

この章では金や金本位制について詳しく説明されています。

ダメな政府は「他に支払いをする手段がなくなった」と言ってお金を操作して国民から富を盗む、という説明が印象的でした。

日本がダメな政府としてインフレを起こすことはないのかな?
少なくとも戦後にはあったわけだけど。

まとめ

これほど「お金」そのものについて記載されている本は今後も出てこないのではないかと思います。

子どもの頃にまったく勉強してこなかった「お金」について学ぶと新たな発見がたくさんあって楽しいですね。

たくさん引用していますが、これでもかなり省略しています。この本にはまだまだ記載されていますので、よかったら読んでみてください。

ではでは。

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